歌物語107
人との係わりのめんどくささと味気なさ。休日は一日こもってイタリアの古い小説をよんでいます。
何もかも俺が悪いとせいせいと言ってしまえば野は秋の風
■註■
短歌○ナニモカモ オレガワルイト セイセイト イッテシマエバ ノハアキノカゼ
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人との係わりのめんどくささと味気なさ。休日は一日こもってイタリアの古い小説をよんでいます。
何もかも俺が悪いとせいせいと言ってしまえば野は秋の風
■註■
短歌○ナニモカモ オレガワルイト セイセイト イッテシマエバ ノハアキノカゼ
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たぶん、これからも。
水槽に眠るアロワナ、ペン先の荒れ感じつつ書き刻む歌
■註■
短歌○スイソウニ ネムルアロワナ ペンサキノ アレカンジツツ カキキザムウタ
・ アロワナ=オステオグロッスム科の淡水産の硬骨魚。
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長すぎた二人の、別々の道のために。
うつろいて刻む七曜、色もなく果てしことのみ知る名無し指
■註■
短歌○ウツロイテ キザムシチヨウ、イロモナク ハテシコトノミ シルナナシユビ
・ 名無し指=くすりゆび。
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もともと寸断されていた世界を繋ぎ合わそうとする事の暴挙。
針で焼く人形の眼のエメラルド亜米利加アメリカ後夜の月の出
■註■
短歌○ハリデヤク ニンビョウノメノ エメラルド アメリカアメリカ ゴヤノツキノデ
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誰が勝利者で、誰が敗者だったのか、まだ、結論は出てはいない。
死んだのは貴様の頭 残されたかなへびの尾に体が生える
■註■
短歌○シンダノハ キサマノアタマ ノコサレタ カナヘビノオニ カラダガハエル
・ かなへび=トカゲの一種。
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商店街はまだ七時前なのに、コンビニ以外、どの店もシャッターを下ろしている。路地裏にはいると、どこからともなく現れて客を引いた、外国の女たちも、もういなくなった。台風の余波の強い風に、はがし忘れの選挙ポスターがはたはたと鳴る。
工場が去りにし町の夕まぐれのっぺらぼうが顔描いている
■註■
短歌○コウジョウガ サリニシマチノ ユウマグレ ノッペラボウガ カオカイテイル
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草むらに露繁き朝。一夜を鳴き飽かぬ虫たちの狂おしさ。
滲み行く光の朝 繰り返し生まれるものの淋しきカノン
■註■
短歌○ニジミユク ヒカリノアシタ クリカエシ ウマレルモノノ サビシキカノン
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今年の、長かった残暑も、どうやら峠を越したようだ。夕暮の屋上のベンチで、缶ビールを飲みながら、頭を冷やしている。別に、あんなにこだわることでもなかったのだろう。ビルの排気孔に潜んでいた数十頭のコウモリが、餌をもとめて、一斉に都会の空に飛び出していく。
口辺に時の破片をくわえつつ飛び交うものら夕暮に満つ
■註■
短歌○コウヘンニ トキノカケラヲ クワエツツ トビカウモノラ ユウグレニミツ
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まだ、時間はある。
立ち飲みは升に二杯と決めおきて屋台に雨のあがるを待てり
■註■
短歌○タチノミハ マスニニハイト キメオキテ ヤタイニアメノ アガルヲマテリ
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久々に山を歩く。前を歩いていた老夫婦が、大丈夫かねなどと話しながら、キノコを採っている。どうも、素人らしい。山の宿で、深夜、温泉につかりながら、本当にあのキノコは大丈夫だったのかと、いらぬ心配をする。
喰えそうなキノコ幾千幾万を見捨てかねたる秋の山行
■註■
短歌○クエソウナ キノコイクセンイクマンヲ ミステカネタル アキノサンコウ
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曼珠沙華一斉に揺れ揺れ止まず生まれしことも偶さかなりき
庭石を除けると、無数の赤蟻が、突然の出来事に右往左往の大混乱を起こしている。しばらく、上から眺めている。首筋に秋日があつい。今日は子規の命日らしい。
■註■
短歌○マンジュシャゲ イッセイニユレ ユレヤマズ ウマレシコトモ タマサカナリキ
・偶さかなり・き=偶然であった。形容動詞「偶さかなり」連用形+過去の助動詞「き」終止形
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激しい雨風が嘘のようにおさまったのが午前四時ころ。徹夜仕事のめどがようやくついて、珈琲でも飲もうと薬罐に火をつける。しばらく、テレビで台風報道を見ながら、うとうとしていると、今日の予定を確認する電話がかかってくる。シャワーを浴びても、頭はまだボーッとしている。六時、家を出る。朝飯は駅の立ち食いで。
台風の去りにし後の行潦 光が遊ぶ風とコスモス
■註■
短歌○タイフウノ サリニシノチノ ニワタズミ ヒカリガアソブ カゼトコスモス
・行潦(にわたずみ)=雨が降ったりして、地上にたまり流れる水。
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大雨の後の炎天 黒蟻の引きゆく蝉のまだ動く脚
移ろう時と、人の心の危うさに立ち止まるのが恐い。
■註■
短歌○オオアメノ ノチノエンテン クロアリノ ヒキユクセミノ マダウゴクアシ
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倉庫の収蔵物の虫干しをする。アホウドリやシマフクロウの剥製、古い書物、土器の欠片、サンゴ虫の化石…。独逸人の骨格標本が風にカラカラと鳴った
遠き墓標わが肋骨を吹き抜けし風よ明日があるというのか
■註■
短歌○トオキボヒョウ ワガロッコツヲ フキヌケシカゼヨ アシタガアルトイウノカ
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もう生きては会えないあなたが残していった古い詩集に挟まれたままの落ち葉のしおり。
曼珠沙華祈りのごとく燃えければ再来を告げ別れ行くのみ
■註■
短歌○マンジュシャゲ イノリノゴトク モエケレバ サイライヲツゲ ワカレユクノミ
・再来=再びこの世に生まれ出ること。
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別れた男から久方ぶりに文が届く。
秋野遙かに汝を思えば服わぬ成りて合わざる一処あり
返しはせず。
■註■
短歌○シュウヤハルカニ ナレヲオモエバ マツロワヌ ナリテアワザル ヒトトコロアリ
・服わぬ=いうことをきかない。
・成りて合わざる一処=男性自身。(古事記上巻)
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朝から解いていた数学の過去問の微分の解の美しさ。
前世に捨て来しものの空白に秋されば咲く荒地野菊よ
■註■
短歌○サキノヨニ ステキシモノノ クウハクニ アキサレバサク アレチノギクヨ
・秋されば=秋になると。
・荒地野菊=南米原産の帰化植物。明治中期に渡来、急速にはびこる。白緑色の花が房状の穂となって咲く。
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もう十分過ぎるくらい、夢は見てきましたから。
誰かわたしと九月の雨の暁に死んでください花一匁
■註■
短歌○ダレカワタシト クガツノアメノ アカツキニ シンデクダサイ ハナイチモンメ
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激しい雨風かようやくおさまった暁の頃。草むらの虫たちの声が、やかましいくらいに聞こえてくる。別に誰が悪いわけでもない。
ふしだらといわれ淋しい肉叢を白磁のごとく慰めていた
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短歌○フシダラト イワレサビシイ シシムラヲ ハクジノゴトク ナグサメテイタ
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雨まじりの激しい風が窓を打つ。何かに取りつかれたようにおまえを抱く。
ゆっくりと締め落とされてゆくときもおまえは遠い眼差しをして
■註■
短歌○ユックリト シメオトサレテ ユクトキモ オマエハトオイ マナザシヲシテ
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もうこれから使うこともないわが分身たち。融通の利かぬ、時代遅れの、ぐずぐずの老いぼれに、いまさら宗旨がえなどできはしない。
古き工具に油を注してしまいおく襤褸雑巾のような明日も
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短歌○フルキコウグニ アブラヲサシテ シマイオク ボロゾウキンノヨウナ アシタモ
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生きものそれぞれの時間の定規に照らせば、蜉蝣が羽化直後に、交尾して、卵を産んでそのまま死んでいくのを、はかないなどといってはならない。それに、成熟が死を意味するその在り方が、果たしてそんなに不幸なことなのか。
夕べに生まれ夜に死にゆく虫たちの多くは薄き羽を持ちたり
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短歌○ユウベニウマレ ヨルニシニユク ムシタチノ オオクハウスキ ハネヲモチタリ
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渋谷道頓堀劇場、父は勇敢に出陣したれど、返り討ちにあいて、撃沈され候。
ダンサーの大股開きの大海に日の丸かざし撃ちてし止まん
■註■
短歌○ダンサーノ オオマタビラキノ タイカイニ ヒノマルカザシ ウチテシヤマン
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