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2005年10月28日 (金)

歌物語121

 木の椅子に腰かけて、夕暮れの雑踏を背中に感じながら、まだ色づかない街路樹に吹く風を聞く。

わたしのヒールを悪妻のごとかなしみて踵直しが叩く夕暮れ

■註■
短歌○ワタシノヒールヲ アクサイノゴト カナシミテ カカトナオシガ タタクユウグレ

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2005年10月27日 (木)

歌物語120

 ルービックキューブの、六面の揃え方を書いたメモが、どこかに行ってしまって、もう一度教えてもらいたいのですが…。

ホットミルクの薄膜を吹くさざ波の夜に残されし伝言を聞く

■註■
短歌○ホットミルクノ ウスマクヲフク サザナミノ ヨニノコサレシ デンゴンヲキク

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2005年10月26日 (水)

歌物語119

ブックセンター・リブロの前でさよならを言うために買う寺山修司

 雨の多い10月。待ち合わせ時間まではまだ少しある。

■註■
短歌○ブックセンター・リブロノマエデ サヨナラヲ イウタメニカウ テラヤマシュウジ

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2005年10月25日 (火)

歌物語118

 前例踏襲こそ汝が処世の枢要にして要諦なれ。

さわれ明日の帳尻合わせも整うと日暮るる前に暖簾をくぐる

■註■
短歌○サワレアシタノ チョウジリアワセモ ヒクルルマエニ ノレンヲクグル
・ さわれ=(サハアレの約。) まあ、とにかく。

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2005年10月24日 (月)

歌物語117

 不甲斐なき自己への嫌悪よりも、狡い自分への失望。

わざくれに叩き付けたるわが拳の或る夜痛みて眠りがたしも

■註■
短歌○ワザクレニ タタキツケタル ワガコブシノ アルヨイタミテ ネムリガタシモ

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2005年10月23日 (日)

歌物語116

 部屋の隅で、膝を抱えて、一夜を明かす。別れた男も、死んだ父も、みんな嫌いだ。

しんしんと闇は巣穴を漏れ出でてインコは孵らざる卵抱く

■註■
短歌○シンシント ヤミハスアナヲ モレイデテ インコハカエラザルタマゴダク

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2005年10月15日 (土)

歌物語115

 遠い世界の果てが、振り向いたらすぐそこにあるような、あっけない幕切れのための旅立ち。

ヒューヒューと線路の向こう赤錆の 風の如きが騒いで止まず


■註■
短歌○ヒューヒュート センロノムコウ アカサビノ カゼノゴトキガ サワイデヤマズ

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2005年10月14日 (金)

歌物語114

 最近のペットショップは見たこともない、いろいろな生き物を売っているのだが…。

ある日ふと甲殻類と成り果てし己が見えておかしかりけり


■註■
短歌○アルヒフト コウカクルイト ナリハテシ オノレガミエテ オカシカリケリ

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2005年10月13日 (木)

歌物語113

 久しぶりに福島の田舎に帰る。田んぼはすっかり取り入れも終わり、もう冬支度が始まる。

あゝ秋の暮れる速さよ風を突き子よわたくしを追い抜いてゆけ

■註■
短歌○アゝアキノ クレルハヤサヨ カゼヲツキ コヨワタクシヲ オイヌイテユケ

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2005年10月12日 (水)

歌物語112

この月は誰が齧りし絶倫の猫らが騒ぐ 懐かしタルホ

 ぼくのチワワの後頭部に刺さったままの星の欠けらは、夜の散歩の時に、時々青白くほのかに光る。一体どういう加減で光るのか、いろいろと研究してみたのだが、いまもって謎である。

■註■
短歌○コノツキハ タレガカジリシ ゼツリンノ ネコラガサワグ ナツカシ タルホ
・ タルホ=稲垣足穂(1900-77)小説家。『一千一秒物語』『少年愛の美学』など。

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2005年10月11日 (火)

歌物語111

 十月だというのに、海はサーフィンを楽しむ若者達で賑わっていた。まだ続きがあると思っていた物語が不意に途切れて、わたしは当てのない休日を一人、海で過ごした。

〈わたし〉から噴き出す海の群青の天いっぱいに満ちるかなしみ

■註■
短歌○ワタシカラ フキダスウミノ グンジョウノ ソライッパイニ ミチルカナシミ

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2005年10月10日 (月)

歌物語110

 夢占の女に頼んで盗んだ夢の、味気ない結末をなじりに、その辻を訪ねると、そこはススキばかりが風に騒ぐ、何もない荒野だった。わたしは少々不気味になって、あわてて町に引き返したのだが、その時、買ったばかりの煙草入れを落としてしまった。

眉墨は濃くきわやかに引きつべしお前の夢に紛れる夜の

■註■
短歌○マユズミハ コクキワヤカニ ヒキツベシ オマエノユメニ マギレルヨルノ
・ 引きつべし=引くのがよい。強意の助動詞「つ」終止形+適当の助動詞「べし」終止形

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2005年10月 2日 (日)

歌物語109

 同僚たちは雨の中、観光に出かけていった。迎え酒が腸に染みる。何もしない、何も考えない。地方局の、見慣れぬ芸人の、間の抜けた物まねが、妙におかしかった。

次の日は雨となりけり居残りて朝から飲めばかまどこおろぎ

■註■
短歌○ツギノヒハ アメトナリケリ イノコリテ アサカラノメバ カマドコオロギ

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2005年10月 1日 (土)

歌物語108

 笠智衆みたいには、演じ切れない人生の寂しさが、しみじみ身に沁みる野分の朝。

骨年齢匂うがごとき白玉の君を離れて飲む缶ビール

■註■
短歌○コツネンレイ ニオウガゴトキ シラタマノ キミヲハナレテ ノムカンビール
・ 白玉=白色の美しい玉。女性や子供のたとえに用いる。

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