歌物語121
木の椅子に腰かけて、夕暮れの雑踏を背中に感じながら、まだ色づかない街路樹に吹く風を聞く。
わたしのヒールを悪妻のごとかなしみて踵直しが叩く夕暮れ
■註■
短歌○ワタシノヒールヲ アクサイノゴト カナシミテ カカトナオシガ タタクユウグレ
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木の椅子に腰かけて、夕暮れの雑踏を背中に感じながら、まだ色づかない街路樹に吹く風を聞く。
わたしのヒールを悪妻のごとかなしみて踵直しが叩く夕暮れ
■註■
短歌○ワタシノヒールヲ アクサイノゴト カナシミテ カカトナオシガ タタクユウグレ
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ルービックキューブの、六面の揃え方を書いたメモが、どこかに行ってしまって、もう一度教えてもらいたいのですが…。
ホットミルクの薄膜を吹くさざ波の夜に残されし伝言を聞く
■註■
短歌○ホットミルクノ ウスマクヲフク サザナミノ ヨニノコサレシ デンゴンヲキク
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ブックセンター・リブロの前でさよならを言うために買う寺山修司
雨の多い10月。待ち合わせ時間まではまだ少しある。
■註■
短歌○ブックセンター・リブロノマエデ サヨナラヲ イウタメニカウ テラヤマシュウジ
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前例踏襲こそ汝が処世の枢要にして要諦なれ。
さわれ明日の帳尻合わせも整うと日暮るる前に暖簾をくぐる
■註■
短歌○サワレアシタノ チョウジリアワセモ ヒクルルマエニ ノレンヲクグル
・ さわれ=(サハアレの約。) まあ、とにかく。
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不甲斐なき自己への嫌悪よりも、狡い自分への失望。
わざくれに叩き付けたるわが拳の或る夜痛みて眠りがたしも
■註■
短歌○ワザクレニ タタキツケタル ワガコブシノ アルヨイタミテ ネムリガタシモ
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部屋の隅で、膝を抱えて、一夜を明かす。別れた男も、死んだ父も、みんな嫌いだ。
しんしんと闇は巣穴を漏れ出でてインコは孵らざる卵抱く
■註■
短歌○シンシント ヤミハスアナヲ モレイデテ インコハカエラザルタマゴダク
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遠い世界の果てが、振り向いたらすぐそこにあるような、あっけない幕切れのための旅立ち。
ヒューヒューと線路の向こう赤錆の 風の如きが騒いで止まず
■註■
短歌○ヒューヒュート センロノムコウ アカサビノ カゼノゴトキガ サワイデヤマズ
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最近のペットショップは見たこともない、いろいろな生き物を売っているのだが…。
ある日ふと甲殻類と成り果てし己が見えておかしかりけり
■註■
短歌○アルヒフト コウカクルイト ナリハテシ オノレガミエテ オカシカリケリ
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久しぶりに福島の田舎に帰る。田んぼはすっかり取り入れも終わり、もう冬支度が始まる。
あゝ秋の暮れる速さよ風を突き子よわたくしを追い抜いてゆけ
■註■
短歌○アゝアキノ クレルハヤサヨ カゼヲツキ コヨワタクシヲ オイヌイテユケ
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この月は誰が齧りし絶倫の猫らが騒ぐ 懐かしタルホ
ぼくのチワワの後頭部に刺さったままの星の欠けらは、夜の散歩の時に、時々青白くほのかに光る。一体どういう加減で光るのか、いろいろと研究してみたのだが、いまもって謎である。
■註■
短歌○コノツキハ タレガカジリシ ゼツリンノ ネコラガサワグ ナツカシ タルホ
・ タルホ=稲垣足穂(1900-77)小説家。『一千一秒物語』『少年愛の美学』など。
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十月だというのに、海はサーフィンを楽しむ若者達で賑わっていた。まだ続きがあると思っていた物語が不意に途切れて、わたしは当てのない休日を一人、海で過ごした。
〈わたし〉から噴き出す海の群青の天いっぱいに満ちるかなしみ
■註■
短歌○ワタシカラ フキダスウミノ グンジョウノ ソライッパイニ ミチルカナシミ
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夢占の女に頼んで盗んだ夢の、味気ない結末をなじりに、その辻を訪ねると、そこはススキばかりが風に騒ぐ、何もない荒野だった。わたしは少々不気味になって、あわてて町に引き返したのだが、その時、買ったばかりの煙草入れを落としてしまった。
眉墨は濃くきわやかに引きつべしお前の夢に紛れる夜の
■註■
短歌○マユズミハ コクキワヤカニ ヒキツベシ オマエノユメニ マギレルヨルノ
・ 引きつべし=引くのがよい。強意の助動詞「つ」終止形+適当の助動詞「べし」終止形
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同僚たちは雨の中、観光に出かけていった。迎え酒が腸に染みる。何もしない、何も考えない。地方局の、見慣れぬ芸人の、間の抜けた物まねが、妙におかしかった。
次の日は雨となりけり居残りて朝から飲めばかまどこおろぎ
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短歌○ツギノヒハ アメトナリケリ イノコリテ アサカラノメバ カマドコオロギ
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笠智衆みたいには、演じ切れない人生の寂しさが、しみじみ身に沁みる野分の朝。
骨年齢匂うがごとき白玉の君を離れて飲む缶ビール
■註■
短歌○コツネンレイ ニオウガゴトキ シラタマノ キミヲハナレテ ノムカンビール
・ 白玉=白色の美しい玉。女性や子供のたとえに用いる。
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