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2005年11月25日 (金)

歌物語140

 西東京のライブハウスに、三島由紀夫の物真似をする芸人がいるというメールを、三島フリークの文学少女からもらう。出演するのは木曜日の夜。当の本人も行ったことがないというので、あまり気乗りもしないのだが、彼女を誘って行ってみることにした。駅のはずれの地下の薄暗いライブハウスに客は十人程度。楯の会の制服に、日の丸の鉢巻きをした小柄な男が、額にしわ寄せて、ベニア作りのバルコニーから、盛んに手を振り上げて、檄を飛ばすのだが、いつの間にか横井庄一や田中角栄になったりして、挙げ句に赤線復活などと大時代なことをいいだす。三島の信者が聞いたら刺されかねない内容なのに、なぜか彼女は笑い転げていた。

おのづから割れし陶器の幾つかの欠片を接げどわが憂国忌

■註■短歌○オノヅカラ ワレシトウキノ イクツカノ カケラヲツゲド ワガユウコクキ

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2005年11月24日 (木)

歌物語139

 いじりほじりくじりいじりねじりかじりにじりかじりまじわる。

蟾蜍路上に潰れ寂しけれ眼球譚のその後のこと

■註■短歌○ヒキガエル ロジョウニツブレ サビシケレ ガンキュウタンノ ソノノチノコト
・ 眼球譚=バタイユ著(1928)

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2005年11月23日 (水)

歌物語138

 終電に乗り遅れて、多摩川沿いに出る。月が明るい。寒さが酔い覚めの身に染みる。毎日、同じようなことの繰り返しに、内心嫌気がさしているのだが、どうしようもない。やけっぱちになったふりして、帰ってきたウルトラマン大声でがなりつつ行く。

多摩川に晒すわが肝今生のアルデヒドまた歩いて帰る

■註■短歌○タマガワニ サラスワガキモ コンジョウノ アルデヒドマタ アルイテカエル
・ 多摩川に晒す=(本歌)多摩川にさらす手作りさらさらに何そこの子のここだかなしき(万葉集・巻14 3373)
・ アルデヒド=ここでは二日酔の原因物質アセトアルデヒドのこと。

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2005年11月22日 (火)

歌物語137

 以前同じ部署で働いていた、同期の同僚の、通夜と告別式の日程を知らせる回覧が回ってきた。癌だったそうだ。気付いたときはもう手遅れだった。おれと違い出世も早く、責任感も人望もあり、誰からも信頼されていた。地方勤務が長いおれとは、最近は年賀状で近況を知らせ合う程度の付き合いしかなくなったが、心許せる友の一人であることに変わりはなかった。仕事もこれからというところだったし、何よりも小さな子ども二人の行く末を思えば無念だっただろう。葬儀には行かず。一人酒を飲んでいる。

電線に雉鳩が鳴く明日への潰れるほどの荷はもたず行く

■註■短歌○デンセンニ キジバトガナク アシテヘノ ツブレルホドノ ニハモタズユク

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2005年11月21日 (月)

歌物語136

 何ひとつ予定通りにはいかないが、何とかやっています。明日は遠く、懐かしい…、誰かがそんな風に言ってましたよね。降り出した雨に濡れながら、ハードデスク付きのプレーヤーで、古いフォーク・ソングを聞いてます。

屋台の蕎麦啜りつつ鼻啜りつつ身を抜けて行くかなしみはある

■註■短歌○ヤタイノソバススリツツ ハナススリツツ ミヲヌケテユク カナシミハアル

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2005年11月20日 (日)

歌物語135

 群衆の一人として歌を作り続けること。歌は直立などしないこと。

先頭はいつか変われり鉄橋を風に押されて駆け抜ける群

■註■短歌○セントウハ イツカカワレリ テッキョウヲ カゼニオサレテ カケヌケルムレ

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2005年11月19日 (土)

歌物語134

 ふいに起こるお前の感情の激しい高まりと、その後の沈黙に耐えかねて、おれはいつものように家を飛び出した。そうして、公園のブランコに揺れながら、気持ちの治まったお前が何気ない顔をして、おれをむかえに来るのを待っていた。けれどもその日お前はいつまでたっても、おれの前に姿を現すことはなかった。くすみだしたクヌギの葉越しに夕日がまぶしくおれを照らし、一枚の葉が予兆のごとくおれに落ちかかる。

秋深し蟻の穴より捨てられし働き蟻とこおろぎの脚

■註■短歌○アキフカシ アリノアナヨリ ステラレシ ハタラキアリト コオロギノアシ

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2005年11月17日 (木)

歌物語133

 また明日から、やり直せそうな、そんな気持ちになっています。

秋草の白馬岳にひとり来て風につむりを撫でられている

■註■短歌○アキクサノ シロウマダケニ ヒトリキテ カゼニツムリヲ ナデラレテイル

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2005年11月16日 (水)

歌物語132

 誰にも話したことはないのだが、楽器の出来る女性は苦手なのだ。育ってきた環境の違いみたいなものが感じられて、コミュニケートするのがめんどくさくなるらしい。当然、演奏会などというものにも、ほとんど無縁で、誘われたからと行って、重たい腰がそう簡単に上がるはずもない。それで、eメールではなく、封書で丁重に断りの手紙を出したのだが、当然こちらの真意など分かるはずもなく、それなら、今度の日曜日に西村由紀江のコンサートがあるからそれに是非などと、やはり封書で相手は言ってくる。

やわらかに紫苑は咲きぬ添えられしピアノ教師のへたくそな短歌

■註■短歌○ヤワラカニ シオンハサキヌ ソエラレシ ピアノキョウシノ ヘタクソナウタ

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2005年11月15日 (火)

歌物語131

 バードウォッチングの初級編ということで、半強制的に多摩川に連れ出された。久しぶりに晴れた秋の一日を、川辺に過ごす。連れの解説に最初は相づちを打ちながら、双眼鏡を覗いていたが、連れは私に見込みがないことを悟ってか、しばらくすると、私の相手はほどほどに、自分で写真を撮りだした。私の方は、鳥よりも、きらきら輝く川面を盛んに魚が飛び跳ねるのを珍しがって、あれは何という魚だと連れに尋ねるのだが、魚のことは分からないらしい。風が吹いて、吾亦紅が揺れている。

棒杙にとまれるままに動かざる翡翠がふと風に紛れる

■註■短歌○ボウグイニ トマレルママニ ウゴカザル カワセミガフト カゼニマギレル

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2005年11月14日 (月)

歌物語130

 これから先も、不粋で、不恰好で、不器用に生きてゆくのだろう。

わが肩の九曜の黒子太りゆく晩年もまた狭霧なす河

■註■短歌○ワガカタノ クヨウノホクロ フトリユク バンネンモマタ サギリナスカワ
・ 九曜=九曜星。七曜星(日・月・火・水・木・金・土)に、羅ごと計都の二星を加えた九つの星のよび名。陰陽道で人の生年月日に配し、運命をうらなうのに用いる。ここでは腕の九つの黒子を、九曜星に見立てている。

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2005年11月13日 (日)

歌物語129

 何年か前のプロレスのビデオを見ながら、休日のつれづれを慰める。

茜さす武藤敬司の脳天のやけに寂しき汗まみれかな

■註■短歌○アカネサス ムトウケイジノ ノウテンノ ヤケニサビシキ アセマミレカナ
・ 茜さす=「日」「照る」などにかかる枕詞。この場合は「武藤敬司の脳天」にかかっているのだが、正式な用法ではない。

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2005年11月12日 (土)

歌物語128

 小学生の頃、宝屋うどん店が、ろくに客も入らないのに、なぜつぶれないのか、みんなで不思議がったものであった。店は汚らしく、暖簾もすすけている。興味はあるのだが、誰もそこでうどんを食べる勇気のあるものはいなかった。先日、久しぶりに行ってみると、なんと、店は元のままで、まだ営業しているようであった。中を覗いてみると、若いかみさんが、愛想よく大きな声でいらっしゃいと返事した。

闇一つ封じ込めたる慳貪に化けゆく前の天麩羅饂飩

■註■短歌○ヤミヒトツ フウジコメタル ケンドンニ バケユクマエノ テンプラウドン
・ 慳貪=慳貪箱。蕎麦などを入れて持ち運ぶ出前用の箱。

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2005年11月11日 (金)

歌物語127

 バイアグラなら安く手にはいるよと、最近、飲み屋で顔なじみになった男が、声を掛けてきた。別に、使うあてもないしねと断わる。男はニヤッと笑って、試しにやってみなと、ポケットに一錠、無理やり押し込んで、とっとと向こうに行ってしまった。そいつは今も机の上に置いてある。

リンガ、リンガ疲れてもなお起ちている眠りてもなお醒めている夜

■註■短歌○リンガ、リンガ ツカレテモナオ タチテイル ネムリテモナ オサメテイルヨル
・ リンガ=linga (サンスクリット語)インドで崇拝された男根像。

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2005年11月10日 (木)

歌物語126

 もう行ってしまうのですか。そんなに焦らなくてもいいじゃないですか。また、嫌なことばかりですよ。それでも行くんですね。わたしは、もうしばらく、ここにいます。

また一人わが耳元を過ぎ行きてこの世とやらへ旅立ちてゆく

■註■短歌○マタヒトリ ワガミミモトヲ スギユキテ コノヨトヤラヘ タビダチテユク

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2005年11月 9日 (水)

歌物語125

 十年付き合った男と昨日別れた。結婚迫ったわけでもないし、このままでいいと思っていたのだが、心の中、見透かされたのかも知れない。

ゴスペルをそんなにかなしく歌うなよ残されたって平気なんだよ

■註■短歌○ゴスペルヲ ソンナニカナシク ウタウナヨ ノコサレタッテ ヘイキナンダヨ

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2005年11月 8日 (火)

歌物語124

 飲み友達が癌になったとき、半年酒をやめた。別に願を掛けたわけでもないのだが、何となく、そんな心境になったのだった。幸い友達は無事復帰して、以前に増してその酒豪ぶりを発揮し出すのだが、私の方は、そんな彼とはいつの間にか疎遠になっていった。

飲むということの戯れ小ぶりなる今年の秋刀魚、えんまこおろぎ

■註■短歌○ノムトイウコトノタワムレ コブリナル コトシノサンマ エンマコオロギ

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2005年11月 7日 (月)

歌物語123

 叔父は、私にだけ、彼の女装趣味を打ち明けた。人付き合いが苦手で、短歌など作っている私に、同じ匂いを嗅ぎ取ったのかも知れない。迷惑な話ではあったが、叔父の話は面白かった。古事記の中で、倭男具那が、熊襲建を殺したときの女装姿、それが彼の究極の理想らしい。最近は、若い友達が出来たらしく、以前のようにメールも来なくなった。

われを欺き身に浴びる悲しみの針千本、祭は女になりて紛れん

■註■短歌○ワレヲアザムキ ミニアビルカナシミノ ハリセンボン マツリハオンナニ ナリテマギレン

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2005年11月 6日 (日)

歌物語122

 眠れない夜。コオロギの声。遠く聞こえる夜行列車の音。

ふと付けし深夜ラジオを流れ来る死んだ女優の唄う恋歌

■註■短歌○フトツケシ シンヤラジオヲ ナガレクル シンダジョユウノ ウタウコイウタ

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