« 2008年5月 | トップページ | 2009年4月 »

2008年6月20日 (金)

歌物語181

 小学四年生の時、リウマチ熱という老人みたいな病気で長期入院したとき、長崎の祖父がわざわざ見舞いに来てくれた。祖父は古式泳法の伝承者で、天皇の前で模範演技をしたことが自慢だった。その時、一緒に来ていた祖母に内緒で、これはお守りだから、誰にも見せてはいけないといって河童沼で河童からもらったのだという水晶玉をくれた。祖父はもう随分前に亡くなってしまったが、あのときの目玉を見開いて僕を見つめる、人を食ったような顔は今でも心に焼き付いていて、時々夢に現れる。水晶玉は今でも僕の机の引き出しにしまってある。あれいらい僕は丈夫になって、病気一つしない。

古式泳法水虎の舞を受け継ぎし祖父が遺せし辺野古水晶

■註■短歌○コシキエイホウ スイコノマイヲ ウケツギシ ソフガノコセシ ヘノコスイショウ

| | コメント (3) | トラックバック (0)

2008年6月18日 (水)

歌物語180

 一歩も踏み出せぬまま、風が流れ、川が流れ、一生が流れ、ぼくらのつまらない演歌が、波音や車の音に混じって聞こえてくる。このままなるようになるさと、誰かの代わりに、また明日を夢見るような歌の続きを書き続ける君へ。

夕焼け空道はいずこに続くらんチョコレート、グリコそのまま帰る

■註■短歌○ユウヤケゾラ ミチハイズコニ ツヅクラン チョコレート、グリコ ソノママカエル

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年6月16日 (月)

歌物語179

 秩父困民党研究家のK氏に変節をなじられ喧嘩別れしてからもう十年近くたつ。先日、突然電話がかかってきて、今度飲まないかということだったが、今更あって話すことなどないし、某企業の管理職におさまって、肥大化した(電話で彼自身がそう言った)K氏の言い訳を聞くほど暇ではなかったので、丁重にお断りをした。

叛旗翻ることなく弦切れし弓形の月残れる朝

■註■短歌○ハンキヒルガエルコトナク ツルキレシユミガタノツキノコレルアシタ

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年6月14日 (土)

歌物語178

 自殺したAV女優のDVDをパソコンで見た。彼女が最後に微笑して終わるラストシーンのクローズアップされた瞳の奥の銀河を渡る夜行列車にオレも乗って、缶ビール片手にかっぱえびせんをかじっていた。次の停車駅を訪ねても車掌は愛想笑いするだけで何も教えてはくれない。ボックス席に一緒に座っていたはずの吉田も丸山もどこかに行ってしまった。オレは大きなくしゃみをして、宇宙にも花粉症があるのかと納得しながら、髭を二日間剃ってないことを気にしている。

無人駅穴山を過ぎうたた寝の最終列車は星に近づく

■註■短歌○ムジンエキ アナヤマヲスギ ウタタネノ サイシュウレッシャハ ホシニチカヅク

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年6月12日 (木)

歌物語177

 「なんでも鑑定団」で古い塩ビの人形が法外にも思える高値をつけているのを見て、そういえばオレも何体か持っていたなと思って、連休に帰省したとき物置や押し入れを家探ししたが、おもちゃのたぐいはお袋がみな捨ててしまったらしい。そのかわり小学校の頃の通知票や図画や作文は大切にとってあって、何もこんなものをと思いつつ、しばらく時を忘れながめていた。

アルバムにアラビア糊で貼られたるセピアの色の若き母上

■註■短歌○アルバムニ アラビアノリデ ハラレタル セピアノイロノ ワカキハハウエ

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年6月 9日 (月)

歌物語176

 自分の通った学校がなくなるというのは、この年になってもやはり寂しいもので、校舎が取り壊されないうちにと、二十数年ぶりに、田舎の母校を訪ねてみた。立ち入り禁止のロープをくぐって、乏しい記憶を頼りに、教室を回ってみるが、めぼしいものはすべて撤去されている。取り残された黒板や教壇がそこがかって学校であった痕跡をのこすのみで、どこもがらんとしていた。たぶん三年の時の教室とおぼしき場所で、もってきたデジカメを黒板の桟にのせセルフタイマーで記念写真を幾枚か撮った。家に帰ってパソコンでじっくりながめても霊などは写っていない。妙に照れくさそうに笑っている中年のおやじがいるばかりだ。

廃校の理科教室の白壁に貼られしままのアインシュタイン

■註■短歌○ハイコウノ リカキョウシツノ シラカベニ ハラレシママノ アインシュタイン

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年6月 7日 (土)

歌物語175

 オレの中でいまだ決着のつかないことどもが、先に抜けた奴らへの恨みや悲しみと一緒になって騒立つ夜明け。表に出れば向こうの空に糸くずのような月がかすかに残っている。

沈まざる日輪を背に疾駆する幻のわが大陸鉄道

■註■短歌○シズマザル ニチリンヲセニ シックスル マボロシノ ワガタイリクテツドウ

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2008年5月 | トップページ | 2009年4月 »